最高裁判所第三小法廷 昭和61年(行ツ)38号 判決 1988年7月19日
静岡県浜名郡新居町新居三四一〇番地の二
上告人
宮城俊介
右訴訟代理人弁護士
渋田幹雄
静岡県浜松市元目町三七番地の一
被上告人
浜松税務署長
金原春三
右指定代理人
植田和男
右当事者間の東京高等裁判所昭和六〇年(行コ)第一四号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六〇年一二月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の申立てがあった。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人渋田幹雄の上告理由について
本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に違法はないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張も失当である。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安岡滿彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己)
(昭和六一年(行ツ)第三八号 上告人 宮城俊介)
上告代理人渋田幹雄の上告理由
第一点、憲法違反
一、原判決は憲法八四条、三〇条、一一条、一二条、一三条に違反している。
(1) 八四条の趣旨
(2) 三〇条、一三条、一一条、一二条の趣旨
二、原処分、原判決は憲法違反である。
第二点、法令違反
(1) 所得税法五九条一項二号違反
(2) 〃 五九条二項違反
(3) 〃 五九条一項一号、六〇条一項違反
(4) 〃 六〇条一項から負担付贈与を除外することの違法
<1> 扶養の場合
<2> 税負担の不公平(単純贈与少額負担、との対比)
(5) 所得税法三八条、措置法三一条の三について
(6) 負担付贈与における負担と増加益について
(7) 結論
記
第一点、憲法違反
一 原判決は憲法第八四条に定める租税法律主義に違反している。そして納税の義務を定めた憲法第三〇条、国民に基本的人権を保障した憲法第一一条、一二条、一三条にも違反している。
(1) 日本国憲法は行政権が恣意的に国民に対して課税しないよう、課税要件を法律で定めるよう求めている。
仙台高裁秋田支部、昭和五七年七月二三日判決はつぎのようにのべている(判例時報一〇五二号三頁以下、判例タイムス〔編注:原文ママ 「判例タイムズ」と思われる〕四八七号一一三頁以下)。
「思うにいわゆる租税法律主義とは行政権が法律に基づかずに租税を賦課徴収することはできないとすることにより行政権による恣意的な課税から国民を保護するための原則であつて、憲法八四条の「あらたに租税を課し又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることを必要とする」との規定は、このことを明らかにしたものと解される。……そして租税法律主義は行政権の恣意的課税を排するという目的からして当然に課税要件のすべてと租税の賦課徴収手続は法律によつて規定されなければならないという課税要件法定主義とその法律における課税要件の定めはできるだけ一義的に明確でなければならないという課税要件明確主義とを内包するものというべきである」。
(2) 又、憲法第三〇条は「国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う」と定めており法律に明記されていない限り納税の義務はない。
このようにして、現行憲法において、国民は課税庁との関係において明文化された租税法によつてのみ課税がなされることにより、その基本的人権が保障されているのである。憲法第一三条において「すべて国民は個人として尊重される。生命自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」旨定めていること、憲法一一条が「基本的人権の永久不可侵性を宣言し、一二条において自由、権利の保持の責任を定めたことにてらしても国民が租税法律主義によつて、その営業や生活を守ることは権利であるとともに義務でもある。
二、ところで本件上告人に対する被上告人の更正、課税処分は後記のとおり法令に違背し、ひいては租税法律主義に違反するとともに前記各憲法の条項にも違反する違憲な処分であり、これを是認した原判決も憲法違反するものである。
第二点、法令違反
(1) 所得税法五九条一項二号違反
原判決は俊介のなした弘子らへの負担付贈与が「所得税法五九条一項二号、所得税法施行令一六九条の定める「資産の譲渡の時における価格の二分の一に満たない額」によるいわゆる低額譲渡に当たることが明らかである」とのべている(九丁表)。
しかし所得税法五九条一項二号は「著じるしく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る)」と定めている。
即ち五九条一項二号は個人に対する低額譲渡を除外しているのである。
所得税法コンメンタール四二九三頁以下(附属書類)に明らかなように五九条は「譲渡所得の基因となる資産が<1>法人に対する贈与又は遺贈、<2>法人に対する時価の二分の一未満の対価による譲渡、<3>個人に対する限定承認にかかる相続又は包括遺贈による移転があつた場合に、その時の時価により譲渡があつたものとみなし、その資産の取得期間中における値上り益(キャピタル・ゲイン)について、その所有者であつた被相続人又は贈与者等に対し所得税を課税するというもの」である。
右のような規定となつた沿革については、右コンメンタールに詳しくのべられている。現行法は昭和四八年法律第八号によつて改正されたものであるが、右改正の前(昭和三七年の改正による)は個人に対する贈与、遺贈(包括遺贈及び相続人に対する遺贈を除く)及び死因贈与(相続人に対する死因贈与を除く)並びに低額譲渡の場合のみなし譲渡課税は、納税者の選択により贈与者等が税務署長に対し「贈与等に関する明細書」を提出し、この適用を受けない旨の申出があつたときは適用されないこととされていた。
四八年の改正はこのみなし譲渡課税の選択制度が<1>納税者がその不適用を欲しているにかかわらず、その不適用を選択するための要件である明細書の自主的な提出は少なくほとんど税務当局の通知によつて、その提出が行われている状況にあること、<2>個人間の贈与は親族間で行われるのが通常であり相続の場合と同様に画一的に取得価額引継方式に変更しても取得価格の確認等について特に問題が生じないと認められることから、その選択制度を廃止し強制的な取得価額引継制度に改めたのである。
この結果四八年以降におけるみなし譲渡課税制度は<イ>法人に対する贈与、<ロ>限定承認に係る相続、<ハ>法人に対する遺贈、<ニ>個人に対する包括遺贈で限定承認に係るもの、<ホ>法人に対する低額譲渡の場合に限られることとなつた。
このようなわけで個人に対する贈与については五九条一項二号の適用はできないのである。
それにも拘らず原判決は五九条一項二号の明文に反して本件贈与をもつて五九条一項二号による低額譲渡であるというのである。
これはあきらかに租税法律主義に違反している。
(2) 所得税法五九条二項違反
原判決は五九条二項の解釈適用を誤つている。
原判決は四八年の改正によつて廃止された個人に対する贈与、及び低額譲渡のみなし譲渡課税制度について二つに区分し、当該対価の額が取得費及び譲渡費用の合計額に満たないときはみなし譲渡課税の制度を廃止して、その譲渡人について譲渡損がなかつたものとみなし、対価の額が取得費及び譲渡費用の合計額をこえるときは、その差額は資産の譲渡によつて譲渡人に生じた所得として譲渡所得課税の対象となる」のであるという(六丁裏~七丁表)
原判決の右の解釈、適用は明文に反する暴論というべきである。
四八年の改正は前述のとおり個人に対する贈与及び低額譲渡についてすべて五九条一項の適用を除外したものであつて、対価の価額や取得費、譲渡費用との対比において適用を区別するものではない。
原判決の引用する五九条二項の趣旨は同条一項とは全く別のことを定めたものである。即ち低額譲渡のうち、個人に対するものであつても譲渡損失の場合には、その所得の計算上損失がなかつたものとみなすということを定めたのである。
前記コンメンタール四三〇六頁も「居住者が山林所得若しくは雑所得の基因となる資産又は譲渡所得の基因となる資産を時価の二分の一未満の価額で個人に対し譲渡した場合には、みなし譲渡課税の適用はないがその場合において、その価額(対価の額)がその資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額、又は雑所得の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡費用の合計額に満たないとき、すなわち譲渡損失が生ずるときは、その譲渡損失はなかつたものとみなすというものである」とのべている。
右にみたように五九条一項は個人に対する贈与及び低額譲渡を除き法人に対する贈与等についてみなす譲渡の規定を置き、五九条二項は個人に対する低額譲渡の場合の譲渡損失の取り扱いを定めたものである。
したがつて一項と二項は全く別のことを定めているのであつて、五九条二項があるからといつて個人に対する贈与又は低額譲渡について五九条一項二号の適用がなされることはありえない。
原判決は五九条一項と二項の趣旨を曲解しているのである。
(3) 所得税法五九条一項一号、六〇条一項の違反
原判決は負担付贈与は五九条一項一号、六〇条一項の贈与に含まれないという(七丁裏)。
右判示も所得税五九条一項一号及び六〇条一項の明文に反している。
一般に「贈与」という用語の中には単純贈与と負担付贈与の双方が含まれている。もし「贈与」のうち負担付贈与を除外するというのであれば、その除外規定を置くことにより課税要件を明確にしなければならない。
これは前述の課税要件明確主義にてらしても当然である。
五九条一項、六〇条一項においてもそれぞれの除外の場合を明確にしてある。
即ち五九条一項一号においては贈与のうち「法人に対するものに限る」として個人に対する贈与を除外しており相続については「限定承認に係るものに限る」として単純承認を除外し、遺贈については「法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る」と定めている。
また六〇条一項一号においては相続について「限定承認に係るものを除く」とし、遺贈につき「包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く」と定めている。
右各条項をみても「贈与」から「負担付贈与を除く」との規定は存在しない。
納税者たる国民は税法の規定を確認して自己の法律行為や取引の判断を行うものである。税法に定めのない事項について当該取引ののちに課税庁から当局の独自の見解にもとづいて課税されることになれば法的安定性は害され、不測の損失を蒙むることになる。
このようなことにならないよう課税要件を一義的に明確にすべきことを憲法八四条は定めたのである(前記仙台高裁秋田支部判決)。原判決は五九条一項一号、六〇条一項について独自の見解により負担付贈与を除外してしまつている。
これは重大な誤りであつて著じるしく正義に反し、一般国民の理解と遠くかけはなれている。
(4) 六〇条一項から負担付贈与を除外することの違法性
原判決の、六〇条一項の適用にあたり負担付贈与を除外するという判断は大混乱を招くことがあきらかである。
<1> 通常負担付贈与がなされるのは親族間の扶養を付款とする場合が多い。
昭和五一年六月二九日東京地方裁判判決(判例時報八五三号七四頁)は養子夫婦に対し自己及び妻の老後の生活の世話及び亡後の墓守、法事等の供養を付款として養子夫婦の娘に建物を贈与したケースである。
又昭和五二年七月一三日東京高裁判決(判例時報八六九号五三頁)は未亡人であるXが亡夫の弟Y夫婦を養子とし、YがXの老後の生活をみること祭祀をつぐことを付款として相続財産である土地を贈与したケースである。これらのケースはいずれも、のちに受贈者がその負担である生活費の支払いなどを履行しないことから贈与契約を解除し紛争となつている。右判例のうち、東京高裁判決の場合は受贈土地の一部を転売し換金している。
即ちXからYへの土地の移転は、昭和四三年一〇月二五日にその登記がなされ、昭和四八年一二月二八日の贈与契約解除の時点においては贈与土地十筆のうち五筆の土地が売却済でその対価は金一、四九九万九、一〇〇円であるというものである。
これについて税務署長はどのような措置をとつたのであろうか。
原判決によればこれらの負担付贈与も贈与者に経済的利益をもたらすものであり、収入すべき金額があることになるから、その負担額が譲渡所得となつて六〇条一項の適用はないこととなりXには譲渡所得課税がなされ、Yに対しては受贈土地の売却による代金について短期譲渡による譲渡所得課税が行われることとなる。
この場合においてXの譲渡所得はどのようにして計算するのであろうか。
前記高裁判決によれば昭和四二年頃XはYから生活費として金一万七、〇〇〇位の仕送りを受けていたというのである。この金員の給付について譲渡所得としての取扱いがなされるとすれば、その取得費はどのようにして計算したのであろうか。
原判決によればXの取得費は仕送り金額の五%ということになる。
しかし現実にXはこのような計算に基いて譲渡所得の申告を行なつたのであろうか。
すべて疑問だらけである。
そして今後も同様の扶養を付款とする負担付贈与について贈与者が譲渡所得の申告をなさねばならないとすれば、老後の安定的生活を期待してなされる親族間の負担付贈与について大混乱をもたらすことは必至である。
右のケースのように受贈者である扶養義務者はその受贈物件の一部を売却換金して贈与者への仕送り資金にあてることが充分ありうる。この場合においてその受贈者に短期譲渡所得課税が適用され四〇%以上の重税を課すことになれば、受贈者は贈与を受けること自体について深刻な決断をせまられることになる。
このような事態は一般国民の常識をもつてしてはとうてい理解できない。
これはすべて負担付贈与を譲渡所得の対象とし、六〇条一項の適用を除外するという被上告人の主張及びこれを是認する原判決の違法、不当な解釈によつてもたらされるものである。
<2> さらに矛盾が大きくなるのは単純贈与と負担付贈与の税負担の不公平である。
本件についてみても単純贈与を受けた和敬については六〇条一項が適用され、同じ価額の土地を負担付で受贈した弘子には六〇条一項が適用されないとしているため、税額において弘子は一、〇〇〇万以上の過重な税を負担する結果となつている(高見上申書別表参照)。又負担の額がすくない程税額が重くなるという結果をもたらしている。(宮城俊介上申書比較表参照)。
このような不合理な結果をもたらす原因は負担付贈与を売買と同視しているからにほかならない。
本件については控訴審において被上告人の主張がまつたく提出されていない(準備書面の提出さえ許さなかつた)ため被上告人の主張は明確でないが、被上告人は要するに負担付贈与を通常の売買と同視しているものである。そのため贈与の時点で有償譲渡があつたものと同列に扱い六〇条一項の適用を除外するという限定解釈をなしているわけである。
しかしこれは負担付贈与が無償行為であつて対価を伴わない譲渡であるという実体を無視しており、前述のとおり六〇条一項の明文に反する不当、違法な解釈である。
右にみたような不公平、不合理をもたらす「限定解釈」は許されない。
(5) 所得税法三八条、租税特別措置法三一条の三に関する解釈適用の誤り
原判決は俊介の取得費の判断について重大な誤りを犯している。
原判決九丁表によれば俊介の本件土地の取得費は負担額の五%にあたる金一三〇万円であるというのである。
相続税法基本通達六五条によると「負担付贈与又は負担付遺贈があつた場合において当該負担額が第三者の利益に帰すときは、当該第三者が当該負担額に相当する金額を贈与又は遺贈によつて取得したこととなるのであるから留意する。この場合において、当該負担が停止条件付のものであるときは、当該条件が成就したときに当該負担額相当額を贈与又は遺贈によつて取得したことになるのであるから留意する」と定めている。右にいうところの「負担額が第三者の利益に帰するとき」は贈与者についても同様にみるべきものであつて、本件の俊介についても該当するというべきである。
そうすると弘子らが負担額の履行をなすことによつて俊介が経済的に利益を受けた金額については贈与税の対象となるのであつて、譲渡所得の取得費を論ずることはナンセンスである。
そもそも負担付贈与については、その贈与財産の課税価格を算定する時点でこのことは清算されている。
相続税法基本通達一四一条は「負担付贈与に係る贈与財産の価格は負担がないものとした場合における当該贈与財産の価額から当該負担額の控除した価額によるものとする」旨定めている。又負担付遺贈についても相続税法基本通達七七条により「負担付遺贈により取得し財産の価額は負担がないものとした場合における当該財産の価額から当該負担額が控除した価額によるものとする」と定められている。
このように負担付贈与、負担付遺贈について、その負担の取り扱いは相続税法及び基本通達により明確になつている。
右にみたように贈与者や第三者の受ける経済的利益については贈与として取り扱い、受贈者についてはその負担額を債務控除して受贈物件の価額を算定するというわけである。ここには負担額を譲渡所得として計算すべき余地はない。
大津地裁昭和六〇年一月一四日判決によれば「取得費は取得時における資産の客観的価値として捉えられるべき取得の対価及び取得に直接要した費用並びに保有中における資産の価値の増大をもたらす資本投資と捉えられるべき改良費等」であつて、遺産分割の際に授受される示談金(調整金)等の代償金については取得費にあたらない。当該示談金が代償分割における代償金とみるべき場合であつてもその代償金をもつて他の共同相続人からその持分を取得した対価とみるべきものではないからこれを取得費に含むことはできない」と判示している。
これを本件についてみると俊介の贈与と弘子らの負担とは対価関係になく、その負担の履行と本件土地の取得とは因果関係もない。
俊介にしてみれば土地を贈与して弘子らに債務の一部の履行を求めたにすぎないのであるから弘子らの負担の履行について取得費を論ずることに無理があるといわねばならない。
このようなことになるのは負担額をもつて、譲渡所得とすること自体が現行法上許されないことを示している。
そもそも負担額の五%を取得費として算定するならば、つねに取得費は負担額を下まわるのであつて、譲渡損失を生ずる余地はないから五九条二項を規定した意味はなく、その規定の趣旨に反する(高見上申書四頁)ことになる。
そして負担額がどんなにすくなくてもつねに取得費はこれを下まわることとなり、単純贈与と同視すべきような少額の負担の場合においても取得費を上まわるということになる。
その結果贈与者に譲渡所得課税が行われ、受贈者は六〇条一項の適用が受けられず短期譲渡課税による重税が課されることとなる。
これはまさに正義に反するといわねばならない。五九条二項はこのようなことを予定していない。
(6) 負担付贈与の付款たる負担を増加益とみることの誤り
原判決は負担付贈与の付款が経済的利益の給付を目的とするものであれば、それは保有資産の値上がりによる増加益の具体化したものであるとし、五九条二項にいう「対価」とみるべきものであるという(原判決七丁裏)。
しかし負担付贈与における負担は当事者の合意によつて決定されるものであつて贈与物件の増加益とは関係ないのである。この点は売買等の有償譲渡と全く性質を異にしている。
即ち売買、交換、代物弁済、財産分与等においては当該資産と、その対価関係に立つ代金、資産、権利等が一定の均衡を保ち、その対価は譲渡資産の増加益が具体化したものとみることもできるであろう。
しかし、贈与における付款はこれとは全く性質を異にし、親族間の情宣や愛情、扶養の内容や程度等にてらして決せられることが多い。
この付款は当該贈与にかかる資産の増加益が具体化したものではない。